今日はどうした?そんなに血相を変えて。焦ったってろくな事は起こりはしないぞ。
ふむ。王様の命令で、これから仕事術は5つしか使ってはいけないことになったって、そういう事かい。
確かに、それは困ったね。彼は自分が一番じゃなきゃ気がすまないからね。それならいっそ、自分以外の人間の仕事の効率を下げてしまおうって、まぁそういう腹だろう。
で、君はどんな仕事術を選んだらいいのかって、そういう相談をしに来たわけだ。
なるほど。じゃあ、君はあの農夫の話を知ってるかな。彼の話はきっと君の役にも立つと思うよ。
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■ある1人の農夫の話
ある所に、1人の農夫がいました。
彼はとても努力家で、そして真面目でした。いや、それしか彼には取り柄がない。そう言ってもいいでしょう。
真面目なばかりに彼は、毎日の仕事に精を出していました。来る日も来る日も、彼は畑に向かったのです。
しかし、彼の仕事には終わりがありません。
「あれもやらなければ」「そうだ、これもやっておいた方がいい」「そう言えば、頼まれてたあの仕事も、今日済ませてしまおう」
そうして彼は、自分に与えられた時間を仕事に注ぎ、それを理由にしてきました。「俺は自分の仕事を全うしている。誰にも文句を言われる筋合いはない!」
そうして、彼の周りにいた人は、一人、また一人と遠ざかって行きました。
「なぜだ?自分のことを一生懸命にやって、やるべきことは全てやってる。なのに…」
一生懸命にやっていたはずなのに、ひたむきに努力を重ねてきたはずなのに。
彼は、独りでした。
ある日、彼は街に買い出しに行きました。その日の用事はとても長引いて、その帰り道には、陽も暮れてかなりの時間が経っていました。
彼が暗い夜道を車で走っていると、一人の男が膝を抱えて佇んでいました。
「どうなさいました?」
農夫は声をかけます。
『空腹で少し動けなくなってしまって…』
農夫は、街で買っておいたおにぎりを一つ、彼に分け与えました。
『あぁ。ありがとうございます。何かお返しを・・・そうだ。これをお渡ししましょう。きっと役に立つはずです。』
そう言って男は、何の変哲もないノートとペンを渡してきました。
『これは、魔法のノートとペンなのです。このノートに、一日でやりたいことを書いてみてください。すると、紙に書いたことはその日のうちに終わるでしょう。』
男を街に送り届けた農夫は、家に帰り、ノートとペンを前に座ります。
「そんなに都合のいいことがあるものかね。」
どうみても、ただのノートとペンです。
そんな、どこにでもありそうなノートとペンの前に、一人前の男がうんうんと頭を抱えていました。
「でも・・・まぁ、損はなさそうだ。とりあえず言われた通りにやってみてもいいか。」
彼は、ノートに書き始めます。
「明日は、ごぼうのタネを植えよう。あとジャガイモの収穫と・・・」
明くる日、いつものように仕事を始めます。牛に餌をやり、小屋の掃除をし、朝ごはんを作って、畑を耕していました。
やるべきことが終わった彼は、ふとノートとペンの事を思い出します。
「そう言えば昨日、ごぼうのタネを植えようと思ってたんだ。あとは、ジャガイモの収穫か…」
陽の高さが正午を指し示そうとしているとき、彼はごぼうのタネを持って畑に向かいます。そして、日が暮れる頃にはジャガイモの収穫も終わり、家へと戻ってきました。
「とりあえず、今日の仕事はこれでいいか」
そう言って一息つき、コーヒーを煎れ始めた頃、ふと気がつきます。「あぁ。こんな充実感を感じたのはいつぶりだろう。仕事が終わったと実感できるのは、本当に久しぶりだ。」
彼はコーヒーをすすりながら考えます。
「時間もまだある。あんなにジャガイモがあっても仕方がない。隣の家までおすそわけに行くか」
そうして彼は車を走らせ、近くの農家という農家にジャガイモを配り始めました。突然のことに、農家の方々が驚いたのは言うまでもありません。
家に帰った彼は上機嫌でした。ジャガイモを配られた人たちの驚いた顔が、たまらなく嬉しかったのです。
彼は家に戻るやいなや、慌てて机に向かい、あの魔法のノートとペンを取り出します。そして、魅せられたように書き始めました。
「明日は・・・」
彼の生活は一変しました。
来る日も来る日も仕事に明け暮れている。その生活は何も変わっていません。しかし、彼は仕事以外の時間を人の為に使うようになっていました。
ノートの最後の1ページを書き終える頃には、彼の周りには多くの友人が戻ってきていました。
しかし、農夫の中には迷いと焦りがありました。そう、彼は自分の力で仕事をして来たのではなかったのですから。
「このノートとペンがなければ、俺は…」
彼は次の日、街に出て、あの男を探すことにしました。
大きな街ではないので、人ひとり探すのに苦労はありませんでした。
『おぉ!あなたはいつぞや、おにぎりを下さった方。その折はどうもありがとうございました!』
「いえ、あなたも元気そうで何よりです。ところで…あのノートとペンの事なのですが…。」
『どうなさいました?』
「実は、あれのおかげで私の生活は一変しました。しかし、ノートの紙が切れ、ペンのインクも無くなってしまったのです。差し出がましくも、またあのノートとペンを頂くことはできないでしょうか…。」
とても申し訳なさそうに申し出た農夫に対して、男は大きな声で笑い出しました。
『あっははは!いいですよ!あんなもので良ければ、いくらでも差し上げます!ただ、今後私が見つからなかった時のために、売っているお店をご紹介しましょう!』
・・・農夫は困惑しています。魔法の道具が、売っている?農夫が不思議な顔をしているのも気にせず、男は農夫の連れ出します。
着いたのは、一件の古ぼけた文房具屋。木でできた看板には、かなりの年月が刻まれているようです。
『これですよ』
男は店内にあるノートをひとつ手に取り、農夫に手渡します。
「・・・これ・・・ですか?」
『いえ、別にこれでなくてもいいんですけどね!じゃあコッチの方がお好みですか?それとも、コッチの小さめの方が・・・』
「ちょ、ちょっと待って下さい!こんなノートは他の街でも見たことがあります!そうではなく・・・」
『そう、どこにでもあるノートですよ♪』
戸惑う農夫を置き去りにして、男は話し始めました。
『あの日あなたにお譲りしたノートとペンは、何処にでもある普通のものです。私は、使い方を教えたまで。
いいですか?日々にやらなければいけない事なんて、星の数ほどあるんです。この文具屋の店主を見てください。彼は非常に暇を持て余しているように見えます。それでも彼の中には、やるべき事がこの店にあるペンの数より多いはずです。
それでも彼は、あんなに余裕のある時間を過ごしている。何故か。
彼は、自分の仕事に終わりを作っているんです。今日の終わり、明日の終わり。今週の終わり。
今日という日は、自分で終わりを作らなければ、いつまでも終わらないんです。終わらない今日を “寝る” という行為で強制的に締めていたのが、昔のあなたです。
だから私は、あなたに、今日という日の終わりを作るように言いました。今日やりたいことを書いて置く。逆に言えば、その書き出したことさえ終えれば、あなたの今日は終わりを迎えるんです。』
突然の話に、農夫は呆気に取られ、とても怪訝な顔を見せていました。
『そんなに納得いかないなら良いですよ!今回までは私が買って差し上げましょう!これで文句はありませんか?』
「・・・い、いえ!おごって欲しいとか、そういう事ではなくて!!」
二人は笑いながら店を出て、それぞれの家路へと戻りました。
■あとがき
仕事術を5つ。これを絞るのはとても難しい。私にだって、ちょっと判断がつかないんだ。
でもね。1つだけ、必ずこれだけは忘れてはいけない事がある。それが、今日やるべきことをノートに書き出すことさ。
あとの4つは、君が好きに選んだらいい。もし選びきれないなら、@rashita2さんの話も聞いてみたらいいんじゃないか?きっと君の為になるよ。
さて、それが分かったら、今日のやるべきことを早速ノートに書きだしてごらんよ。それだけで、君の今日は変わるからさ。
ま、僕なら真っ先に「その王様の領地から抜けだしてしまう」を書き出すけどね。
from your @bamka_t
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