【前回のおさらい】レポートの「問い」が大事という話をしていたら、もう提出直前の学生もいたことをすっかり忘れていた。
”レポート提出直前にできることはありますか?”
ちょっとしたことでずいぶん良くなる。進吾くんにハッパを掛けるためにも、ここで一言伝えておこう。
(前回のお話はこちら)その「問い」は何のため?レポート課題の目的とは
提出直前にもできること
「明後日提出期限なんすよ、オレ・・・どうしたらいいっすかね」
たしかに、前回お勧めした本を読んで実行するにも、明後日提出期限では間に合いそうにない。
「どんなレポートなんですか?来年とろうかな、と思ってたので教えてください」
そうだった、かすみさんは進吾くん達からみると後輩だもんな。
「ええとね、問いは決まってて、それに対して自分の意見を書くタイプ。一応調べ物は頑張ってみたんだけどね」
かすみさんは素直な後輩なので、進吾くんも気負いせずにしゃべれるようだ。
「いまさら図書館に行ってもどうしようもないから、今あるのでなんとかするしかないんじゃないかな」
すでに完成したレポートを手元に持っている明日香さんは手厳しいな・・・
「まあ、明日香さんのいうとおりだよ。大枠はもうそのままで行くとして、少しでも良くするコツを教えるね」
明日香さんにも役に立つはずだ。
「進吾くん、明日香さん、このレポートは”問いは与えられていて、自分の意見を書くタイプ”なんだよね?」
「はい、そうです」
「それじゃ明日香さん、今のレポートをかすみさんと進吾くんに見てもらって、添削の赤ペンをいれてもらおう」
「え、提出前に友達のレポートを見たらカンニングじゃないんですか?」
そうとは言い切れないんだな。
レポートピアレビューのすすめ
「とりあえず、明日香さんのレポートをコピーしてきた。さて、みんなで赤ペン先生をやってみよう」
「私、まだ一年生で、○○学なんてやったことないんですけど、意味ありますかね・・・」
まあまあ、いいからいいから。とりあえずやってみよう。
「あれ、1.(1)、1.(2)ときてるのに、次が1.(4)になってるぞ」
「先輩、段落のはじめに一字空けるの忘れてますよ」
「よく見るとこの文、主語と動詞が対応してない・・・」
「接続詞の使い方変じゃないですか?」
「あっ、私の論文引いてくれてるのは嬉しいけど、論文のタイトル間違ってるし、頁番号忘れてる」
「えぇえ、そんなにミスありましたっ?!うわああ、そのまま提出してたら大変でした」
そう、誤字・脱字や段落構成のミスって、勢いで書いちゃうと気がつかないんですよ。
「こうやって、仲間うちで見せあいっこするだけでもずいぶんミスが減らせますね」
「そう、仲間でレビューすることを、”ピアレビュー”という。これをお勧めしたいんだ」
提出前にちょっと見てもらうだけでも、かなり違います。
「でも、これ、ほんとにカンニングにならないんですか?」
「そりゃ、いくら切羽詰まっているからって、進吾くんが明日香さんのレポートを丸ごと写したりしたら、不正行為になってしまう。だから、最初にこのレポートの性質を聞いたんだ。問いは決まっていても、自分の意見を書くタイプのレポートなら、自ずから内容が違わなければいけないからね。そういうタイプのものなら大丈夫」
どうしても間に合わないときは印刷して別人モードで
「でも、これって見せるための時間が必要ですね」
そうなのです。見てもらうためには〆切直前まで粘っているのではだめ、ということ。
「最低でも一日前には仕上げて、チェックしてもらったあと直しても提出出来るくらいの時間の余裕が必要だね」
「そうなると、オレはもうだめか・・・?」
「どうしても間に合わなかったら、”一旦印刷してトイレ休憩してから赤ペンを持って自分でチェックする”だけでもずいぶん違う」
一度印刷すると、ミスが見つけやすくなります。
最初のピアレビューはもっと早めに!
「進吾くんはあとはもう頑張るしかないけど、本当はもっと早い段階で最初のピアレビューをしておくといい」
「どうしてですか?」
「”その問いに答えるだけの意義があるか”や、”その問いで出題者は何を聞きたがっているのか”という視点は、一人で考えるとなかなかわからないものなんだ。だから、とにかく取りかかってしまって、一旦誰かにチェックしてもらう方が良い」
提出資料を仕上げるコツは”まず5割”から
5割程度の出来でまず確認する理由は「上司との方向性が合っているか」を確認するためです。 …
上司と部下の関係を、「出題者の聞いてること」と自分の考えに置き換えて読んでみてください
「社会人でも、成果物の方向性なんてなかなか掴めない。そういうときは、一人で考え込むより、とにかく形を作って相談したほうがいいんだよ」
「レポート課題の話がいつのまにかビジネスの話に・・・」
「でも、アウトプットをするという点においては共通しているんですね」
「だから、最初とりあえず取りかかってみて、みんなの疑問を持ち寄ってみる。どうしても解決出来なければ、先生に質問しにいくのもいいだろう。そして、レポートを実際に書いた後も、できればピアレビューで、間に合わなければ印刷して別人になったつもりで読んでみる。わかりにくい独りよがりな記述があっても、仲間にコメントしてもらって直せば、提出するときにはすごく良くなっているはずだよ」
「そういえば、ぱうぜセンセのレジュメ、最初は誤字がなかったのに、最近は・・・」
ごめんなさい、講義後半は準備が切羽詰まってしまって、レジュメを友人に見てもらう時間が無かったのでした。やっぱり見てもらう時間を取らないとどうしてもミスができてしまいますね。
「それじゃ、オレ、明日の夕方までになんとか仕上げるから、明日香ちゃん、見てもらえないかな」
「私のもだいぶ直してもらえたし、いいよ」
「こうやってお互いのためにやれば、やる気もわきますね」
「期限も決まったし、さあ、頑張るか。お先に失礼しますっ!」
進吾くんは急いで帰宅して、続きを頑張るみたい。
深みのある議論にするために
「もう少しだけ、レポートとか、議論について聞きたいです」
赤字の入った原稿を直し終えた明日香さんは、まだまだ話したりないようだ。
「いちおう今回の課題に取りかかったときに友達と話したんですけど、”へえ、そうなんだー”で終わってしまったんです。これだと、なんだかピアレビューって感じじゃないですよね」
うん、それはただの相づちだ。
「主張・理由・証拠の三点セットが大事っていうのはわかったんですけど、どうやったらいいんですかね」
かすみさんまで不安な顔になってきちゃった。
「明日香先輩がわからないんだったら、私も心配になってきちゃいました・・・」
“深みのある議論をするための心がけは?”
レポートでも大事だし、実りある会議のためにも必要な視点だね。それじゃあ、コーヒーを淹れ直して考えてみよう。
◇ぱうぜセンセのメモ◇「人に見せること」を恐れない
明日香さんへの無茶ぶりに近かったけど、人に見せることそれ自体を恐れないのは彼女のいいところだな。「恥ずかしいから」って言って一人で悩んでても前に進めないことがある。見せても不正行為にならないタイプのレポートなら、「見るに耐える」ものなのかどうか、仲間内でチェックしてから提出するくらいの余裕があったほうがいいんだよね。
・・・あ、自分の原稿、レビュアーしてくれる親友に早く見せなきゃ・・・。
編集後記
前回の記事と関連する内容を、彩郎 @irodraw さんが書いていらっしゃいます。
出題者と対話する(問いを設定するコツ)
彩郎 @irodraw …
レポート採点中に考えたことをまとめていらっしゃいます
レポート課題は、【自分で書いてみる→他人のレポートを添削する→自分で自分のレポートを添削するようなつもりで直す】というプロセスを経ると、ぐんと上達します。彩郎さんは出題者・採点者と執筆者の立場を往復しながら、丁寧に検討されていますので、是非ご参照ください。
ぱうぜセンセのコメントボックスでは「バーチャルコメントボックス」を設けております。Twitterで #ashitano をつけて投稿していただければ適宜拾いますので、どしどしお寄せください。いただいた全ての質問にお答えできるか分かりませんが、とりあえず試してみることにします。似たような仕組みとして「ビストロ・アシタノ」もありますが、ビストロはアシタノメンバーみんなで答える形式になります。どうぞ両方ご愛顧ください。
2013年春から大学教員になった駆け出しの研究者。専門は行政法。
個人ブログとして対話をテーマとした「カフェパウゼをあなたと」を運営中。
http://kaffeepause-mit-ihnen.hatenablog.jp/