軍師の心得」シリーズの第4回では、戦国時代の軍師「黒田勘兵衛(くろだ かんべえ)」が得意とした「交渉」の場面を取り上げます。
交渉というと現代ビジネスでは重要なスキルの一つに挙げられますが、その交渉の進め方を学ぶ場面は実はなかなかありません。そこで、今回は戦国時代の軍師の交渉方法を題材にして、現代のビジネスパーソンに活かせるスキルを抽出したいと思います。
さて、戦国時代において軍師が行う「交渉」とは何を指すかというと、それは主に、異なる地域を支配している武将や大名との交渉です。例えば合戦を始める前の交渉、同盟を結ぶための交渉、戦争を終結させるための交渉などがあります。このように様々な利害関係の調整に必要とされる「交渉」について、戦国武将の生き様を含めそのスキルの本質的な点を見ていきましょう。
1.自分自身が先頭に立って交渉を進める
戦国時代の軍師「黒田勘兵衛(くろだ かんべえ)」は、重要な交渉の時ほど自ら出向いていきました。有名な交渉の場面としては、織田信長との初対面の交渉があります。当時、若かりし「黒田勘兵衛(くろだ かんべえ)」は播磨地方の領主「小寺政職(こでら まさもと)」に仕えていました。そしてこの領主「小寺政職(こでら まさもと)」が織田信長と手を結ぶために使者を選ぶ際、「黒田勘兵衛(くろだ かんべえ)」は自ら率先してその役を名乗り出ました。まだ会ったことのない相手、加えて当時は「荒くれ者」と名高い織田信長です。下手な交渉をすれば、その場ですぐに斬り捨てられてしまう恐れもありました。しかし、軍師「黒田勘兵衛」はその大役を率先して引き受けたのです。
その理由は、自分の将来を開拓する好機があると考えたからだと推測されます。すなわち織田信長に一目置かれる存在になれば、活躍の場がさらに広がると読んだのでしょう。そのため、自ら織田信長という難しい交渉相手に対面することを望みました。
ちなみに、別の交渉の場面として「荒木村重(あらき むらしげ)」との交渉があります。黒田勘兵衛は織田軍と敵対していた「荒木村重(あらき むらしげ)」に対して、織田軍への協力を説得するために交渉に挑みました。そしてこの時も自ら先頭に立ち「荒木村重(あらき むらしげ)」と面会しました。しかしこの交渉の場面では荒木村重の罠にはまり、黒田勘兵衛は捕らえられて牢屋に閉じ込められてしまいました。結果論から言えば、この時だけは先頭に立ったことが失敗に繋がりました。しかし、自ら先頭に立ち交渉を進める姿勢は、織田信長の勢力圏で黒田勘兵衛の名をより高めることになり、周りに支援者を作ることになりました。
2.交渉の場で一から考えずに、事前に策を練っておく
先の「1」の場面において自らが交渉の場に出向くことの重要性をお話しました。しかし、当然のことながら交渉の場にただ顔を出すだけ。或は、単に交渉の席に座っているだけでは良い結果は生まれません。先に述べた黒田勘兵衛の場合、織田信長と面会した際、領主「小寺政職(こでら まさもと)」から預かった伝言を伝えただけでなく、織田信長からの質問に的確に回答し、織田信長から高い評価を得ました。
ここから言えることは、交渉の場に参加する場合はそこで活発に議論する姿勢で挑むこと。さらにはそこで展開される議論の方向性(シナリオ)を予め予測し、進め方をイメージしておくことが、相手とのスムーズな交渉の進展に役立ちます。
3.相手が知りたい情報を持っていく
さらに先の織田信長との初対面の場でのお話として、黒田勘兵衛の交渉の技をもう一つ紹介しましょう。これは交渉の成功確率を上げるテクニックです。
通常、初対面の場での交渉というと、それほど深い話には至らず、お互いに自己紹介をして簡単に要件の概要を説明するだけで終わることがほとんどです。そして、しばらく相手に検討の時間を与えます。しかし、織田信長との初対面の面会の場は簡単には終わりませんでした。いいえ、黒田勘兵衛はあえて簡単には終わらせませんでした。
ではそこで何を行ったかというと、黒田勘兵衛はいきなり合戦の作戦を提案しました。というのも、当時の織田信長は、中国地方の毛利家を次の攻撃目標と考えていました。そのため黒田勘兵衛は毛利家が所有する幾つかの城の軍勢の様子や地理的な情報を収集し、毛利家に対する有利な戦い方を織田信長に提案したのです。すると織田信長は黒田勘兵衛の作戦に興味を持ち、会話の合間に質問を挟みながら、黒田勘兵衛の軍師としての資質を認めました。そして、毛利家への攻撃において参画を指示しました。
このお話を現代のビジネスパーソンの立場に置き換えてみましょう。
黒田勘兵衛の行動を現代に置き換えると、ビジネスの取引先などが求める情報(例えば、地域別の販売計画や将来のモデルチェンジ情報)を事前に考え、その情報を集めること。そして、相手が興味を持つ形で説明することができれば、相手は交渉内容により踏み込もうとします。
そして提供する情報が有益であれば、相手との協力関係や信頼関係が生まれます。その結果、交渉相手が自分の提案に対して、より積極的に応じてくれる可能性を高めることに繋がります。
■オススメのトピック・書籍
このコーナーでは、今回のお題に関連してビジネスパーソンに役立つWebサイトや書籍を紹介します。
書籍: 話す技術・聞く技術―交渉で最高の成果を引き出す「3つの会話」
ダグラス・ストーン (著), ブルース・パットン (著), シーラ・ヒーン (著), ロジャー・フィッシャー (その他), 松本 剛史 (翻訳)
ちなみに、経営コンサルティング業界ではロジカルシンキングと資料作成スキルを磨く目的において下記書籍が有名です。
書籍: 考える技術・書く技術―問題解決力を伸ばすピラミッド原則
バーバラ ミント (著), Barbara Minto (原著), 山崎 康司 (翻訳), グロービスマネジメントインスティテュート
アラキ(Twitter:@arakinet)です。外資系経営コンサルタントを経た後、皆さんと一緒に世の中に新しい前例を創ることを目指すベンチャーを新たに設立。ワクワクする発見を求めて経営戦略立案やIT、新規事業に関する仕事をしている30代。大手からベンチャー企業まで様々な業界・業種の方々と関わりながら暮らしています。