「センセ、お久しぶりです・・・ちょっとお時間いいですか?」
入試も終わって、あとは卒業生を送り出したら新年度。学生は春休みで羽を伸ばしているのかと思ったら、明日香さんとかすみさんが、なんだか深刻な顔をして研究室に訪ねてきた。
「二人そろってそんな暗い顔して、どうしたの?また質問かな?」
「わたしたち、やっぱりダメかも・・・です」
“ミーティングでうまく発言するためのコツは?”
レポートの次は、今度はミーティングか・・・結構難題だなあ。まずはなんで悩んでいるのか聞いてみようか。
(前回のお話はこちら)アシタノワークショップ第3回は「仕事がタノシクなるコラボレーション術!」
こじれてしまった会議
「ええと、どうしてそんなに凹んでいるのかを、かいつまんで教えてくれるかな?」
なんとか聞き出したところによると、学生団体合同での新入生歓迎企画があるらしい。明日香さんの所属するチアリーダー部と、かすみさんと文哉くんの所属する写真部も参加するということで、各団体の代表者が集まる会議に出席した、ということのようだ。文哉くん、本当に後輩のかすみさんたちに任せることにしたみたいだね。
「初回なので『顔合わせ』という話だったんです。でも、連絡ミスで準備期間が思ったより少ないことが判明して」
「焦り始めた人達が、なし崩し的に、第二回予定の議題である企画内容まで話し始めちゃったんですよね・・・」
結果、ちょっと感情的にこじれてしまったようだ。
「明日香さんはいっぱい良い案を出していたんですけど」
「たぶん収拾が付かなくなったのはあたしのせいだよ・・・ごめん」
「いえいえ、私こそ、何もしゃべれなくて、『写真部のアンタ、何考えてるかわかんないよっ』って凄まれちゃって、空気悪くして」
それは、凄んだ方が悪いと思うけどな。
「まだ、重要な会議なんて出るの早かったんですよ、私・・・文哉センパイに任せてもらったのに・・・」
「んなことないってば。あたしがギスギスさせちゃったのがまずかったんだって。楽しく励ますのがポリシーのチア部なのに、部長失格だよ・・・」
「「センセ、どうしたらいいか、ヒントとかありませんか?」」
学生同士で解決すべきことだし、根が深い問題のようだから、『振る舞い方』についてだけアドバイスしようかな。あくまでヒントだよ、と告げると、二人はゆっくりと頷いた。
会議での振る舞い方
結局、明日香さんとかすみさんは、正反対のところで悩んでいるようだ。
明日香さんの場合
明日香さんは、思ったことをどんどん発言しちゃうタイプ。会議の方向が企画案に移ったときに、どんどんアイデアを出していった、という。
「別に明日香センパイは悪くないですよ・・・実際、いろんなアイデアが出たじゃないですか」
「でもね、後から『俺たちが話すタイミングがなかった』とか、『自己紹介だけじゃなかったっけ、準備もなしによく考えられるよな』とか、『時間が延びたのはアンタのせいだ』とか、『お前最初に言ってたことと最後に言ってたこと矛盾してるだろ』とか、いろいろ言われちゃって」
うーん、やっぱり根が深そうだ。会議運営自体の問題もかなり含まれているな。
「言われたことが本当に的を射ているのかどうかは、部外者の私にはわからない。でも、なんで明日香さんはたくさん発言をしたのかな?」
「実は・・・あたし、『何人もいるところでシーンとなっちゃう空気』に耐えられないですよ」
あー、それは分かるかも。
「それで、そのとき思いついたことで場をつなごうとするんですけど、自分でも何言ってるかわかんなくなっちゃう」
かすみさんの場合
「あっ、でも、それって、私みたいに全然しゃべらない人がいるせいで・・・私のほうが悪いんですよ」
かすみさんは逆で、最後までろくに発言できなかったようだ。
「かすみさんは、書記をしてたんだから、立派に仕事してるよ」
「書記になったのは、文哉センパイが議長にそれとなく勧めてくれていたからみたいです。たぶん、文哉さんも、私がろくにしゃべれないのわかってたんですよ・・・実際、何もしゃべれなくて」
「でも、かすみさんだって、色々考えていたんでしょ?」
この研究室での受け答えを見る限り、かすみさんがぼーっとしてたとは思えないんだよね。
「はい、そうなんですけど・・・後になって、『あ、ああ言えばよかったなあ』とか、『Dさんのこの発言って変じゃないかな』とか、『それなら写真部のCさんが得意だなあ』とか、言えなかったことの後悔ばかりで」
「それって、あたしが沈黙を潰しちゃってたからだよ・・・ほんと、ゴメン・・・」
あー、このままほっとくと、明日香さんマジ凹みモードに入っちゃうから、そろそろ介入しよう。
研究会だとどうだろう
前に、研究会については考えたことがあったなあ…。
実りある研究会から「発話」と「発言」の間を考える – カフェパウゼをあなたと
内向的・外向的という軸と二種類の質問という軸で考えてみました
このときは、報告者が発表したあとに、会の他のメンバーから質問を受ける、というタイプの研究会について。会議にもこういう「報告会」型はあるよね。・・・みんなで発言していく会議とはちょっと異なるけど、参考になるかもしれない。
二種類の「質問」
「あくまで傾向なんだけどね、外向的な人と内向的な人だと、会議における役割がちょっと違うんじゃないかな」
報告会型の場合では、二つのタイプの質問がありました。
「まずはね、『切り込み隊長』タイプの質問。これは、『報告者、肩に力入りすぎて難しすぎ・・・』とか、『あー、丁寧にやろうとしすぎて無難なことしか言ってないけど、この報告者はもっと考えてるはずだよなあ』なんていう場合に、まず質問するっていうタイプの質問」
これは、明日香さんみたいな、外向的で「沈黙が耐えられないくらい発言するタイプ」に向いているね。
「次に、議論がある程度進んでからの『とりまとめ』とか、『より大きな課題』タイプの質問。話の流れが色々出てきてからの質問だから、結構深いところまで突っ込まれていたりする・・・その場で答えが出ないこともあるかもね」
これは、かすみさんみたいな、内向的で「他の人の発言をじっくり聞いて考えているタイプ」に向いているんじゃないかな。
「さっきから二人の話を聞いてるとね、どっちが悪いってこともないんだよ。みんなで考えるタイプのミーティングや会議にも、役割の違う色々な振る舞い方があると思うんだ」
「それじゃ、どうしたらいいですかね?」
やっぱり明日香さんは気が早い。隣でかすみさんは、今の話のメモをとっている。・・・あ、これだ。
メモを使って視点切り替えを
「はい、そのままでストップ!この状態ですよ、お二人とも」
「あわわっ!センセ、なに突然大声を・・・」
「ああ、ごめんごめん。明日香さん、隣のかすみさんがやってることを見て」
ああ、かすみさんは手を止めなくてもいいから・・・
「わ、私は、センセとセンパイのお話がおもしろくて、必死にメモをとっていたんです」
「かすみさんが書記に推薦されたのは、『会議で発言できない』からじゃないよ、きっと。写真部の会議でも、こういう感じなんでしょ?」
「はい、写真部でもメモをとりながら聞いていて・・・最後に、文哉センパイが、『かすみさん、何かひとこと』って無茶ぶりしてくるので、メモをみながら、気がついた点をぽつぽつ話し始めるんです。写真部だったら知り合いばかりだし、なんとかしゃべれるので」
明日香さんがビックリした顔をしている。・・・かすみさん、ホントに何もしゃべれなかったんだね、会議で。
「どんなことに気がつくの?」
「たとえば、『Bさんが言うこととCさんが言うことは、食い違ってるように見えるけど同じ方向だから協力できますよ』とか、『前半にUさんが言った問題、結局まだ解決してないですね』とか」
それ、かなりレベル高いよ、かすみさん。
「そうか、自分でしゃべる代わりにメモを取っておくのね・・・あっ」
明日香さん、メモを取り出して一心不乱に書き込み始めた。
・・・。
「せ、センパイが何もいわないとシーンとなっちゃいます。メモ、見ても良いですか?」
「あっ。いや、ほら、メモに自分が発言したいことを前もってメモすれば、何しゃべったか分からなくなるって恥ずかしいこともなくなるのかな、と」
でも、一言一句書いておくと、タイミング逃しちゃうね。今日は3人しかいないから良いけど。
「で、何を言おうとして・・・『メモを挟んで視点を切り替える』ですか」
「そう。かすみさんがしたことって、『いろんな人の立場をメモを通じて切り替えてる』ってまとめられるかなあと」
「こないだの『悪魔の代弁人』の話を思い出して、色々な立場を考えてみたんです」
おっと、もう言うべき事が無くなった。かすみさんの応用力に脱帽。
最初は難しいので練習しよう、そうしよう
「でも、これって難しいですね、センセ」
「前にノートの回で紹介した3本線ノートで出来ることだけど、最初は一度に色々な視点を書きながら進めるのはむずかしいね。まあ、慣れが必要かな」
「うーん、でも、試してみます。かすみさん、こないだの会議のメモ、見せてくれないかな?」
「はい!私も、センパイみたいに発言できるよう、がんばります!」
メモするところまでは出来ていたみたいだから、あとは発言のタイミングかな。
「二人で反省会やってみます。センセ、ありがとうございました」
◇ぱうぜセンセのメモ◇
発言って難しいよね・・・私も明日香さんタイプだし。どっちが良いって問題じゃなくて、どっちも居てくれた方がいい、っていうのを伝えそびれちゃった。まあ、それは二人とも気がついてるみたいだから良いかな。
編集後記
今回は就職が決まって卒業目前の4年生からいただいた質問をもとにしてみました。就活で体験した「集団討論」でうまく振る舞えなかった、というのです。確かに、初対面の人ばかりのミーティングは難しいですね。
実は彼女たち4年生には授業で「3本線ノート」を使ったミーティングをやってみてもらいました。結構難しかったですが、一度やってみたらその意図は伝わったみたいです。
・・・これ、アシタノレシピ読者の皆さんにもぜひ体験してもらいたいということで、ワークショップをやります。
アシタノワークショップ第3回は「仕事がタノシクなるコラボレーション術!」
実際にやってみよう!
参加募集中です。
4月19日、皆さんにお目にかかれるのを心待ちにしております!
ぜひ皆さん、「バーチャルコメントボックス」に質問をお寄せください。Twitterで @kfpause宛てにツイートしていただいても結構ですし、 #ashitano をつけて投稿していただければ適宜拾いますので、どしどしお寄せください。
2013年春から大学教員になった駆け出しの研究者。専門は行政法。
個人ブログとして対話をテーマとした「カフェパウゼをあなたと」を運営中。
http://kaffeepause-mit-ihnen.hatenablog.jp/