「卒業おめでとうっす!」
そうか、今日は学部の卒業式なんだね。進吾くんのデカい声、研究棟まで届いてるなあ・・・どれどれ。
「あ、ぱうぜセンセ、お久しぶりっす。今日はゼミの先輩の卒業式なんすよ」
「はじめまして、しおりです。なんとか就職先も決まって、来週から新社会人になります」
あれ、誰かと雰囲気が似てるような・・・
「妹のかすみがお世話になっているそうで、お話ししてみたかったんです」
あー、かすみさんのお姉さんが進吾くんの先輩なのか。世間狭いなあ。
「『なんでも質問していいよ』が口癖だって聞いたんですけど、私もいいですか?」
“新社会人にお勧めの趣味は?”
おっと、勉強や研究の話じゃなくて、趣味と来たか。
(前回のお話はこちら)「ミーティングで発言するときのコツは?」役割と視点を切り替えてみよう
お金が掛からなくて続けられる趣味がほしい
「へっ、趣味なんて何で聞くんですか、先輩」
確かに、好きにやったらいいんじゃないかな・・・
「いままでやってた趣味は、引っ越し先の周辺だと続けられそうにないんです。新しい趣味を探してみたいなあ、って。いまのところ趣味らしい趣味も他に無くて」
ラクロスサークルだったのか・・・確かにそれは難しいかもしれない。
「お金があまりかからなくて、長いこと続けていけそうな趣味って、ありませんか?」
「ぱうぜセンセはしょっちゅうTwitterにいるから、そんな趣味なんかないでしょ」
・・・進吾くん、それは言わない約束だぞ・・・いやいや。私にだって趣味はありますよ。
「それじゃあ、『読む』のはどうかな」
「読書ってことですか?」
「なんだかありきたりの答えっすね・・・」
勝手に失望しないでおくれよ。うーんと、言い方を変えよう。
「本だけを読むんじゃなくて、『本棚』や『書店』を読むんだ。うん、『書店めぐり』とでも名付けようか。とりあえず初任給が出たら、3000円もって本屋にいこう」
「えっ、訳がわからないっすよ、どうやって『本屋』を読むんですか?」
『書店めぐり』のススメ
「書店に入ったら、どこに向かうか決まってるかな?」
「オレは、新刊のラノベコーナーっすね」
「私は、ファッション雑誌をめくって、そのとき必要な本を買います、参考書とか」
本屋に行くこと自体には抵抗がないみたいだな。よしよし。
「それじゃあ一回、だまされたと思ってやってみてほしいことがあるんだ。その書店にある棚を、端から端までめぐってみて」
今回提案したいのはこれなんだよね。以下、私の趣味である『書店めぐり』のあらましをまとめてみます。
- 今日の予算を決める(3000円のことが多い)
- 書店の棚を端から端までめぐってみる。手にとって見てみたくなるけど、我慢して最後まで
- 「今日の3冊」を選ぶ
- 予算内で買い、おつりがあればコーヒー一杯飲んでちょっとずつ読んでから帰る
「これが『社会人向けのお金の掛からない趣味』なんすか・・・?3000円かかってるじゃないすか」
「社会人にとっての3000円って、気がついたら飲み会で吹っ飛んじゃう金額だけど、一ヶ月に3000円だったら、なんとか出来ないでもない金額なんだよ」
無理だったら2ヶ月に1回でもいいんで、3000円って言うところには納得してもらえないかな。
端から端まで巡る意味
「でも、なんで端から端までめぐってみるんですか?」
「本っていうのはいろいろな世界をもってるもので、自分が見たことのない世界にも飛べるんだよ。見たことがないジャンルの本でも意外と手に取りたくなる本が見つかる事があるんだ。友達の本棚をみてるような気分でみてみるといい」
「確かに、理工系の友人の本棚ってよくわかんないけど面白いときあるっすね」
「あと、雑誌で話題になっていることも、詳しい分野の本まで見てみると、一過性のブームなのか、昔からある話題なのかわかったりする」
本屋さんにもいろいろあるよ
「あと、もう一つの理由は、本屋さんの個性に気がつくから、だね」
「本屋さんって、売ってるもの全国流通してて、大差ないんじゃないですか?」
「たしかに。どこいっても値段は変わらないし・・・」
「いやいや、そうでもない。同じ広さの本屋でも、駅ビルの改札前にある本屋さんと、大学の書籍部と、美術館・博物館のおみやげコーナーの本棚ではまったく違う」
「あ、そういえば、こないだ博物館で、マニアックな出版社の図鑑を見つけたっす」
「普通の本屋さんでも、著者の名前順に並べているところと、ジャンル別にならべているところとか、ありますね」
「旅行先での本屋さんも、土地によって選んでる本が違うっすね、そういや」
「その本屋さんの仕入担当になったつもりで、どんな本棚を作っているのか、企画会議の練習だとおもって眺めてみると楽しいよ」
「あー、それが『本屋を読む』ってことですか」
「広さが同じでそれだけ違うなら、広さが違う本屋だとさらに変わってきますね」
「3冊選んでみる」
「それじゃ、『今日の3冊』ってなんですか?」
3000円の大きな理由は、ここにあるんだよね。
「日本のいいところは、古典的な名著も、最新のネタも、文庫とか新書というかたちで本棚に並んでいることなんだ。3000円あれば、3冊選べる」
「・・・マンガとかラノベではダメですか」
「ダメじゃないよ。私も、3冊のうち1冊くらいは、そういう本を買うし」
「選び方のコツとかあります?」
「違う位置づけの本を3冊選ぼう」
たとえば、古くて難しいけど読み継がれている本、最新の本、気楽に読める本の3冊とか。同じテーマで読み比べても良いし、ぜんぶ違うテーマでとっかえひっかえ読むのもいいですね。
「そっか、3000円あると、一冊目がちょっと分厚くて1800円とかしても、軽いのを2冊選んで3冊、というのもできますね」
文庫や新書だと、500円台からありますし。
「そのうち1冊は雑誌やムックという手もありますね」
「ムックってなんすか、赤いモップみたいなアレですか」
いやいや、書籍と雑誌の中間のタイプの本のことだよ。雑誌よりもまとまった内容になっていて、書籍よりも話題性が高い内容が選ばれることが多いね。
「一ヶ月に一回、っていうかんじで定期的にいくと、同じ本屋でも『推しメン』ならぬ『推し本』が変わってくる。いくつも巡り歩くだけの余裕がなくても、きっと楽しいと思うよ」
人に勧めるために選ぶのも楽しい
「テーマをきめて3冊、っていうのも楽しそうですね」
「そうだね、それこそ趣味を探すために3冊選ぶとか、入院している友達にお勧め3冊とか、テーマを決めてみると意外な本に出会えるかも知れない」
恩師のお子さんに贈る3冊を選ぼうと児童書コーナーに行ったら、懐かしい本に出会えたりして楽しかったなあ。
「それじゃあ、ぱうぜセンセ、先輩になにか勧める本ってありますか」
「そうだね・・・この本とこの本は今日の質問につながっているから、読んでみるといい」
「え、オードリー若林って、ぱうぜセンセの好きな芸人っすね」
「エッセイ集なんだけど、その中に『無趣味』がキーワードになっているものがあるんだ。しおりさん、探してみて」
「なんか面白いタイトルの本ですね・・・わかりました、読んでみますね」
「これじゃ2冊っすね、もう1冊!」
今日の話の関連だと、この本もお勧めですな。3冊選ぶ、という考え方について参考にしました。
「ただ、絶版になってしまっているから、こっちを勧めるよ」
「わかりました、ちょっと試してみますね」
「先輩、読み終わったら貸してください!」
「ああ、それじゃあ帰省するときにかすみに預けておくね」
はは、進吾くんはちゃっかりしてるなあ。
「うん・・・改めて、しおりさん、卒業おめでとう!」
◇ぱうぜセンセのメモ◇
今日は『書店めぐり』に特化して説明したけど、本そのものが「企画の宝庫」なんだよね。まあしおりさんなら、きっと気がついてくれるだろう。今度、機会があれば進吾くんとかすみさんに伝えておこうかな。
編集後記
今回も就職が決まって卒業目前の4年生からいただいた質問をもとにしてみました。まさか卒業生に趣味を聞かれるとは思いませんでしたが、楽しんでもらえたらいいなあ。
ちなみに、今日の内容は来年度の新入生向けゼミとつながっています。反応が楽しみです。
アシタノワークショップまであと3週間。皆さんの「本屋めぐり」体験についても、懇親会で聞いてみたいです。ぜひご参加を!
アシタノワークショップ第3回は「仕事がタノシクなるコラボレーション術!」
実際にやってみよう!
参加募集中です。
4月19日、皆さんにお目にかかれるのを心待ちにしております!
ぜひ皆さん、「バーチャルコメントボックス」に質問をお寄せください。Twitterで @kfpause宛てにツイートしていただいても結構ですし、 #ashitano をつけて投稿していただければ適宜拾いますので、どしどしお寄せください。
2013年春から大学教員になった駆け出しの研究者。専門は行政法。
個人ブログとして対話をテーマとした「カフェパウゼをあなたと」を運営中。
http://kaffeepause-mit-ihnen.hatenablog.jp/