さて、来週から新学期が始まるぞ・・・ゼミも始まるし、頑張らなきゃなあ・・・ん、突然のノックの音。
「センセ、成績表返ってきました~!」
ああ、明日香さん、ずいぶん久しぶり。進吾くんは卒業式以来だね。
「もう講義終わりましたけど、質問いいですか?」
もちろんどうぞ。
“定期試験、難しすぎやしませんか?”
うへえ、これは・・・さて、コーヒーを淹れて、じっくり答えるか。
(前回のお話はこちら)トライと地雷の見極めを!大学新入生の皆さんへ
大学の定期試験
「・・・明日香ちゃん、いきなりそんなこと言ったらセンセビックリしちゃってるよ」
「だって、頑張って勉強したんだけど、ギリギリだったんだもん・・・進吾くんはどうなの」
おっと、ここで大クレーム大会に発展しそうな気配なので、流れを変えたい・・・。
「センセ、『大学の先生になったの初めてだから、定期試験作るのもはじめて』だって言ってましたよね。実際どうでした?」
進吾くんが空気を読んでくれた。その質問なら答えやすい。
何のためにどんな問題を出すのか
「試験問題作りって、超難しかった・・・ついでにいうと、採点も」
「へっ、大学の定期試験問題って、教授の趣味に走るんじゃないんですか?」
いやあ、他の科目や専門の先生がどう考えているかはわからないけどね。あくまで今回は「ぱうぜセンセ」(の中の人)がどう考えたか、っていう話にさせてもらいましょう。
「私が担当した科目は、公務員試験とか司法試験関連でも関わりのある科目だからねえ」
しかも、自分のとっても狭い意味での専門ではない部分を教えていたので、『趣味』の度合いは一段低かったんですよね。
「資格試験関係の科目だからって、どうなるんです?」
「将来、資格試験に向けて勉強するときに困らないよう、大事なところを漏らさず教えるように心がけたよ」
一度大きな流れを聞いておけば、自分で勉強するときにも見通しがつきますからね。大学のマスプロ講義でも、やりとりしている内に空気感というのが掴めるはず。
「だからか、事例問題だけじゃなくて○×問題もあったのは」
そうです、事例問題だけだと細かいところ聞き漏らしちゃうからね。いろんな部分の「大事なところ」を理解しているかどうかを確かめるために組み合わせました。
「それじゃ、資格試験と似たような出題にして、採点もそうすればいいじゃないですか」
いや、ことはそんなに単純じゃないんだよね。
落とす試験と確かめる試験
「資格試験は、不適格な人をはじかなければいけない。でも、大学で最初にその分野を習ったときの試験って、そういう風じゃ困るでしょ」
資格試験は落とす試験ですが、単位認定ってそういうことじゃない気がするんですよね。
「どこが違ってくるんですか?」
「どちらも公平にやらなきゃいけないけど、『公平』の置き所が違うというか・・・」
ううむ、なんだか難しいな。今回、採点していて考えたことをつらつら述べてみますか。
「実はね、採点してみると思った以上に『別解』が多かったんだ。でも、それらはそれぞれきちんと考えた上での解答だったから、理解度に応じて点数をつけたり、場合によっては加点したりしたわけ」
「あ、先週センセから受講生宛に来たメールに、採点基準と解説が付いてましたね」
そうなのです。今回、理解度をきちんと測りたいと思って、資格試験等で出される形式に類似した後半の事例問題(事例を出して、問題点に対する考え方を記述する長文記述式問題)だけでなく、前半にもちょっとした仕掛けを作っておいたのです。
「問題形式、ちょっと変わってましたね。後半の事例問題は司法試験とかで見ますが、前半の【○×問題+理由付け】って初めて見ました」
「ある語句や判例についての説明があって、この記述が正しいなら○、間違いなら×とその理由を書け、でしたっけ」
ちょっと混乱させてしまいましたが、この理由をつけてもらったことで、どれくらい理解しているか一目瞭然でした。
定期試験のその先に
「そういえば、その採点基準、気になることが。あれ、『第31回の解説』ってタイトルになっていましたね」
はい、4単位授業だったので、全部で30回講義して、その後だから。
「定期試験が終われば、それでもうおしまいだと思って欲しくないんだよ。なんで採点基準と解説を出したと思う?」
「え、来年もう一回、ってことですか・・・そ、そんなに単位落とした人多かったんですか」
いや、そういうつもりじゃなくてですね・・・
「センセがどう思ったかはわからないですけど、アレ読みながらもう一度試験問題読んだらとっても悔しくなりました」
「なんで悔しくなったの?」
「センセ、こういうところ大事だって確かに言ってたような気がするのに、うまく書けなかったなあ、って」
はい、それが第31回であることの意味です。
「わかったつもりになってても、書けないって悔しさが、ですか」
「長い講義だったから、途中で一回任意の練習問題を出したけど、全員がやったわけでもない。定期試験って、君たちにとっては特別な授業なんだ」
「あー、アウトプット・・・」
「それも、必死になって詰め込むっていうインプットを経た後のアウトプットだね」
「いかに『わかってなかった』ことがわかったというか、ほんと悔しいっすね」
「定期試験を経て、できればもう一度、振り返って欲しかったんだ」
アウトプットを見据えたインプットを
私も学生時代は結構一夜漬け派だったから、わかるんです・・・
「なんとかして書かなきゃ、と思いつつインプットするのと、漫然とインプットするのだと、かなり定着率が違うんだよ」
一瞬だけアウトプットできればいい、と思って詰め込んだことは、だいぶ忘れてしまいました。
「あとで自分の手で使えるようにインプットしなきゃいけない、ってことですか」
「そう。それが一番わかるのは、アウトプットした直後だから」
「だから、試験後にもう一度インプットしようとすれば、身につくってことですね」
「先生になってからも、なんとか原稿にしなきゃって思いながら調べたことは結構きちんと身についてる」
「アウトプットできるレベルまでインプットするのって、大変なんですね」
記述式問題を出す理由
「それが、記述式問題を出す理由でもあるんだよね、採点してみてよくわかった」
「どういうことですか?それも、採点してみてわかったんですか?」
「記述式問題って、自分で小問を立てる能力がいるんだよ」
「記述式問題、苦手です・・・なんか、今回進吾くんと話してたら、自分の解答がものすごく短いってことがわかって」
「ずいぶんあっさりと書いてるんだもん・・・びっくりしたよ、オレ。『手続的瑕疵(かし)を検討せよ』って問題で、2行はないでしょ」
法学の話に入り込みすぎると読者のほとんどが付いてこないから、ここはたとえ話で乗り切ろう。
「明日香さん、オリンピックでスキーの滑走競技は見たかな?」
「はい、旗が二本ある旗門をいくつも通り抜けながら、降りてくるんですよね」
「たとえて言うならね、明日香さんのような短い解答になってしまった人は、10個あるチェックポイントを全部無視してまっすぐ下まで降りてきちゃった選手なんだよ」
「えぇ、それじゃ点数にならないですね」
「問題文よく読めばさ、ぱうぜセンセは旗立てまくってたぞ」
ヒントが多すぎでかえって混乱したかも知れないですが。
「そ、そんなの、あたしには見えなかった・・・」
「・・・端的にいえばね、勉強が足りない。『そこに旗があるんだよ』って気づくかどうか、そしてそれを論理的につなげて議論できるかどうか。内容の正確さはもちろんだけど、そもそも『みんなが大事だと思うこと』に気づくくらいの勉強をしたかどうかが出発点になるね」
「前にオレに向かって『専門教育における”勉強”の部分』が大事だっていってたの、明日香ちゃん自身じゃないか」
「答えは一つじゃないんですか?」勉強と研究、そして専門教育とは
研究者が教えるということの意味を考えてみました
「でも、出来る気がしないです・・・」
「これも『アウトプットしたあとにインプット、そしてまたアウトプット』という往復を繰り返すと見えてくるようになるから、もう一度書いてみて、もってきてごらん」
「誰かに見てもらうと気づく、っていう『ピアレビュー』っすね」
レポート”ピアレビュー”のすすめ~提出前に「他人の目」をいれておこう
レポートで身につけた力は記述式問題にも役立ちます
まあ、先生に見てもらうのは「ピア(仲間)」じゃないかもしれないけどね。
「試験後に添削してもらうなんて、センセごめんなさい」
「いや、試験が終わって単位がとれたからおしまい、というものでもないよ。更に学んで質問が出てきたら、遠慮無く来てね」
「そういや、ぱうぜセンセ、ほかの講義は?」
「君たちの新学年向けに、少人数の科目があるから、こっちも受けてみて欲しいな。関連科目だから、受講前に今回の科目を復習しておいてもらえると助かる」
「わかりました、それまでの復習として、もう一度インプットしてみます」
明日香さんは、一回落ち込んだあとのリカバリーが早いな。いいことだ。
◇ぱうぜセンセのメモ◇
まあ全ての先生が同じ事考えてるわけじゃ無いと思うけど、「アウトプットとインプットの往復」っていう考え方は大事だというところは、ほかの皆さんも納得してくださるんじゃないかな。
あと言いそびれたけど、「30回分講義をすること」っていう超絶アウトプットがあって、ものすごくインプットが捗ったことは・・・さすがに学生に言うことじゃないか。いやはや、自分の博論とは違う部分を教えたから、結構忘れててしんどかったなあ。
編集後記
新学期開始直前の研究室にはこういう質問も来ます。今回は受講生からの質問でした。
ついに来週になりました!アシタノワークショップ、まだまだ参加者募集中です。
「アウトプットを狙ったインプット」「インプットの後のアウトプット」のワクワク感を掴めるような構成にしています。
とゆさん、Beckさんのお話、楽しみです。そこを受けて、私がワークをやります。
「ぱうぜセンセのゼミ受けてみたい!」って人はこの機会にどうぞ。
アシタノワークショップ第3回は「仕事がタノシクなるコラボレーション術!」
実際にやってみよう!
4月19日、皆さんにお目にかかれるのを心待ちにしております!
ぜひ皆さん、「バーチャルコメントボックス」に質問をお寄せください。Twitterで @kfpause宛てにツイートしていただいても結構ですし、 #ashitano をつけて投稿していただければ適宜拾いますので、どしどしお寄せください。
2013年春から大学教員になった駆け出しの研究者。専門は行政法。
個人ブログとして対話をテーマとした「カフェパウゼをあなたと」を運営中。
http://kaffeepause-mit-ihnen.hatenablog.jp/