「信用できる本ってどう見分けるの?」情報の目利きになるには

ぱうぜセンセのコメントボックス
来週のゼミはさいしょのレポート提出日。どんなレポートが来るかなあ、楽しみだな。
「センセ、レポートの課題選びで質問が」
1年生の映二くんから、ちょっとドキっとする質問が飛び出した。

「選んだ本が信用できるかどうかってどうやって判断するんですか?」

しっかり課題を進めている証拠だなあ。さて、これはぱうぜ研究室で語ることにしよう。


(前回のお話はこちら)「長い通学時間を逆手に取るには?」耳で学び、楽しもう!

専門家ならわかるけど・・・

「あー!ぱうぜセンセ、俺もちょっと質問が」

遠くからの大きな声・・・これは進吾くんだな。進吾くんは3年生以上のゼミに来てくれてるんだよね。

「レポート課題の本3冊ってマジ難しいっすよ・・・どれがまともかなんて自信ないっす」

あれ、同じ質問だ。そういや、1年生ゼミには最終課題として出したものを、3年生ゼミには最初の課題として出したんだよね。映二君は準備が早くて、もう取りかかっているから同じ質問が同じタイミングで来たのか。ええい、まとめて答えてしまおう。

研究室のソファに座って一息つくと、進吾君がおもむろにスマホの画面を取り出した。

「どういう本が信用できるのかな・・・って思ってTwitterぶらぶらしてたら、こんな書き込みを見つけたっす。この方、ぱうぜセンセのトモダチですよね?」

はい、たしかにそうです。

「匿名だからどんな人かわかんないっすけど、おそらく法律のプロっすよね。専門性ある人ならこのやり方でわかるだろうけど、俺たちじゃ無理っすよ・・・」

「先輩がそういうなら一年生の僕はもっと無理ですよ・・・」

あー、ronnorさんは完全ペンネームですがこんな本を出してしまうくらいには法律のプロですね。

「まあ、まあ。でも大筋では使える考え方だから、少しアレンジしてみようか」

目利きのポイントを考えてみよう

「まず、ronnorさんが言ってることそれ自体は、法学研究者のぱうぜセンセからみても間違ってないんですか?」

映二くんは結構冷静だなあ。そこから確認するとはね。

「うん、映二くんの質問が『信用できる法学論文の見分け方を教えてください』だったら、同じ答え方をしていたと思うよ」

ronnorさんの本は法学論文としても通用するレベルの記事がありますからね・・・はて、どんな人なんですかね、まったく。

「だから、ronnorさんが言っていたことを、より一般論にアレンジすれば、今回の質問の答えになると思うんだ。せっかくだから3人で、その『目利きポイント』を考えてみようか」

「おお、ぱうぜセンセ得意技『質問を質問で返す!』が出ましたねえ」

進吾君、君はあたしをそんな風に見ていたのか・・・まあいいや、気を取り直してやってみよう。

引用文献(脚註)から読むってホント?

「それじゃあ、ronnorさんの言ってることをとりあえず信用することとして・・・これ、ほんとですか?『最初に引用文献から読む』って」

「これ俺もビックリしたっす。『引用されている文献がどんなモノか』から読む、ってことですよね」

「うん、これはホント。というか、私もそのような読み方をするからね」

ronnorさんにも話したことがあった気がするなあ。あれ、私のことなのかも。

「『基本的に、「これを論じるならこれを前提にするのは当然だろう」という文献を引用するか』っていう視点を出してますけど、これってその分野についての専門性がないとわからないですよね?」

映二くんはなかなか疑りぶかいなあ。良い傾向だ。

「あー、でもそれって、引用を何のためにするのかを考えてみたら分かるのかも」

「進吾先輩、どういうことですか?」

「センセ、引用とか参照って、『自分の書いていることが何を受けたものなのかをたどれるようにする』目的でやるんですよね?」

良い視点ですね。ゼミの中で、「剽窃がなぜだめなのか、どうしたらいいのか」について解説したときに、早稲田大学教育学部が学生向けに作成したpdfを参考にしたのでした。
【重要】「教育学部レポート作成の手引き ~盗用・剽窃をしていませんか? ルールを守って「正しいレポート」を!~」

正しい引用・参照のルールとは何でしょう。それは、あなたの書いたレポートで、本や論文、新聞・雑誌の記事、ウェブ上の文章などを参考にしたり、引用したりした場合には、その出所を、読み手が確認できるように明示する、ということです。そして、そうすることによって他の著作に依拠した部分と、自身が直接調べたり、考察したりした部分を、読み手にわかるようにすることです。

(早稲田大学教育学部「盗用・剽窃をしていませんか?ルールを守って「正しいレポート」を!」(2012 年 6 月(最終アクセス2014年5月17日)(URLは前掲リンク先)、2頁)

「そう、進吾くんの言うとおりだよ」

「それじゃ、ronnorさんの言ってる事って、『たどった先の引用元・参照元の選び方のセンスがいいから信用できる』ってことなんですかね」

そう言い換えると、ちょっと一般化してきたね。

「そのためには、まず前提条件として『まともな引用・参照をしているか』が必要になるじゃないですか」

そう。だから、レポート課題ではまずそれが出来ることが重要。君たちが悩んでいる問題はその一つ先なんだ。

「じゃあ、まともな参照をしているかどうかっていうのは最低限必要な視点なんですね」

本によっては脚註って形になっていないかもしれないけれど、ちゃんとデータに基づいて語ろうとしているかどうかとか、適宜アレンジしてくださいね。

『乗り越えたい先行者』に対する敬意があるか?

「それじゃ、ronnorさんの言っていたことの前半も、同じように考えてみようかね」

「全然知らない分野について『著者』っていうのは難しいですね」

「まあ、どういう経歴の人が書いているのか位はチェックしますけどね・・・」

それはそれで大事なことだね。ただ、「学者だからスゴい」とか、「ゴシップ記事を多く載せている雑誌のライターだからゼッタイダメ」ってことはなくて、プロ意識があるかどうかによるから、それだけでは決め手になりにくい。

「それじゃ、どうやって判断するんです?」

「ronnorさんはもう一つのツイートでなんて言ってる?」

「ええと・・・『それぞれの論点についての条文、判例、先行研究、実務の取扱い等が客観的に紹介されているかどうか』、だそうです」

「この『客観的』っていうのが大事なんだよ。『我田引水にならないようにしているか』ともいえるね。進吾君、思い当たる節はないかな?」

「あー、これ、あの『悪魔の代弁人』の話につながるんですね」

「悪魔の代弁人って?」議論を深めるために必要な視点とは
レポートの議論を深めるために必要な視点として紹介しました

「ええと、悪魔の代弁人って、”自分とは異なる意見を持つ最強のライバル”のことっすね」

「進吾先輩、なんでその話がここでつながるんですか?」

「たぶん、ronnorさんが言いたいのはね、『自分の説を言いたいがために今まであったことをテキトーに紹介するような書き手はそもそも信用できないぞ』ってことなんだよ。だから、『悪魔の代弁人もーど』を使って、きっちり正確に紹介しようとしている書き手なら、ようやくソイツの言ってることも読んでやろう、って事なんだと思うよ」

言い方は若干砕けているけど、まあそういうことだろうね。

「うん、『今まであったこと』についてもきちんとした目利きができている書き手ならば、自然と自分の仮説についても検証しつつ書いているだろうからね」

「情報の目利き」と「発信の作法」は表裏一体

「いまの視点、おもしろいです!つまり、こういうことですか。『情報の目利きと発信の作法は表裏一体』ってことですよね!」

おっと、映二くんのスイッチが入ったようだ。

「先生がレポート課題に求めていることは、良い書き方を練習しながら、良い書き手を探す力を付けて欲しいってことなんですか・・・むむむ、奥が深い・・・」

なんか、言いたいこと全部言われてしまった。

「それじゃあますます難しいっすよ・・・」

「まあ、大学生活っていうのは『学問的に正しいお作法で情報を取り扱えるか』というのが一大目標だからね。ゼミの課題としてだけでなく、色々な場面で考えながら試していけば、自然とできるようになっていくよ」

「これも、とりあえずやってみろ、ってことですね・・・はい」

「うん、レポート提出まで頑張ってみてね。楽しみにしているよ」

◇ぱうぜセンセのメモ◇

レポート課題について考えるというのはいろいろなところにつながっているんだなあ・・・今までも何度か書いたけど、まだまだ疑問がつきないね。
その「問い」は何のため?レポート課題の目的とは
レポートの種類を見極めましょう

レポート”ピアレビュー”のすすめ~提出前に「他人の目」をいれておこう
友達と見せあいっこするだけでもずいぶん良くなります

ほんとは「手続の大切さ」とか、「行政裁量の判断に似てる」とかも思いついたけど、それこそ法学の専門に入り込むから自重した・・・うーん、3年生ゼミのほうではその関係も話そうかな。

編集後記

今回も1年生からの質問でした。来週ほんとにレポート提出日なんですが、どんなものがくるのか楽しみです。
なお、どういう内容の課題なのかはまた今度詳しく書きますね。

ぜひ皆さん、「バーチャルコメントボックス」に質問をお寄せください。Twitterで @kfpause宛てにツイートしていただいても結構ですし、 #ashitano をつけて投稿していただければ適宜拾いますので、どしどしお寄せください。

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