基礎ゼミ中間レポート講評中。次は、映二くんのレポートに移ろう。
「このコメントも解説がほしいです・・・」
「問いが大きすぎるよ、ってどういうことですか?」
映二君はしっかり準備しただけあって、この課題にぶち当たったんだよね・・・
(前回のお話はこちら)発想→「整想」→成果物!伝わるように産み出すための3つのステップ
頑張り屋さんの”失敗”
「映二くんのレポートは、途中のピアレビューのときからすごかったです」
レポート”ピアレビュー”のすすめ~提出前に「他人の目」をいれておこう
他人の目でのチェックは大事ですね
「さくらさんとのピアレビューをしっかりやってたおかげで、故障したときもなんとかなりました、ありがとうございます」
提出直前に大慌て!故障トラブルの備えをしておこう
あらかじめ他の人に送っておくのもリスク回避の一手段
「でも、そのときには『問いが大きすぎる』って気づかなかったです。どういうことですか?」
「それじゃ、映二くんのレポートをみんなで確認してみよう。タイトルはなんだっけ?」
「ええと・・・『良い交通政策とは何か』です」
「おおっと、ずいぶん大きな見出しなんだね。どういう内容を書いたの?」
新聞部部長の文哉くんが身を乗り出して聞いてきた。これ、見出しじゃなくてタイトルだよ。
「ええと、過疎地に住んでいる祖母が、最寄りの駅が廃止になって、困っていたんです。そこで、良い交通政策について考えたいと思いました」
ものすごく真面目な理由。だからこその熱意だったんだね。
タイトルと中身の食い違い
「それで、鉄道網整備の歴史とか、路線廃止後に代替手段をつくった事例を紹介しました」
鉄道の歴史についての本や、代替手段を作ったNPOのサイトまで紹介してある。脚注のつけかたについてはばっちりなレポート。もちろん、課題図書にもふれられている。
「そうだったね。で、文哉くん、たぶん君なら私が言いたいことが分かると思うんだけど・・・」
「ええ。映二さん、これ、タイトルと中身がずれてませんか?」
「え、ちゃんと交通政策の話をしたと思うんですが」
・・・。重たい沈黙が流れる。
「文哉兄さん、兄さんだったらどういうタイトル付けるの?」
「真理哉さ、お前だったら『交通』って聞いて思いつくのは何?」
「なにいってんだよ、俺が無類のフェリー好きなの、兄さんなら知ってるだろ」
あー、そういえば、離島出身者だった。彼らからみれば交通といえば海上交通なのね。
「交通っていっても色々あるんですね・・・あたしはこの春に運転免許とったんで、道路交通法とかそっちを思い浮かべました。タクシーの運賃とかこないだもニュースになってたし」
さくらさんはさくらさんで、道路のことを考えたみたいだ。
「そうか・・・僕のレポートは、鉄道のことしか語っていないのに、『交通政策とは何か!』と大上段に振りかぶり過ぎたんですね」
「だから、俺だったら『過疎と鉄道路線~廃止後の代替手段』とかいうタイトルにするね」
「自分の問い」をリサイズしてレポートの問いに
「まあ、映二くんが、自分の体験を元に、それを一般的な課題にして書き始めていることはすばらしいね」
「そうですね、このレポート、背景には『おばあちゃんかわいそう!』って気持ちがあるんでしょうけど、文中では『過疎地での交通手段が無くなることは、人口減少社会に突入した日本における喫緊の課題である』っていう風に、一般化してますものね」
「でも、そこから交通政策一般すべてを論じようとするのはやり過ぎだ、と」
「うん。今回はたまたま映二くんの出発点が具体的な事例だったから、結果として鉄道廃止問題にまとまっていったけど、単に『鉄道が好きだから』とか、『フェリーが愉しいから』って理由から、交通政策を論じようとすると・・・」
「あっちこっちに手を伸ばして、まとまらないレポートになりますね」
「調べはじめる契機としては、それでもいいと思うんだ。鉄道のことが好きだから、交通問題について調べてみる、ってね。また、大学4年間での学びを選び取っていくときに、交通問題について継続して考えていくっていうのも良いだろう」
自分の関心を元にしていくと、授業選びも愉しくなりますね。
「でもさ、今回のレポートって、どんな要件のレポートだったっけ?」
「A45枚以内で、きちんと引用や脚注のルールを守って」「問い・答え・論拠の3点セットを意識して」「課題図書の問題点に触れながら」「しかも1ヶ月しか期間が無かった」
そう、そういうことです。
「自分の問いを持つことはすばらしい。でも、成果物になるときの大きさを想定して、この問いだと大きすぎるってときは、適度に問題を限定することが大事なんだよ」
そうじゃないと、いろんな観点を紹介しただけのうすっぺらーいものになってしまう。主張・理由・証拠を適切な密度で付けながら書こうとすると、大きすぎる課題は扱えなくなっちゃうんだよね。
発想→整想→成果物のサイクルを回しながら
「でもセンセ、『この問い大きすぎるな』っていつ気づくんでしょうか?」
「前回、『アウトラインを育てる』ってことをいったね。最初は漠然として広めの内容になっていても、調べていくとどこに資料が集まっているのか、関心があるのかがわかってくる」
「この段階で友達に話してみるのもいいかもしれないですね。自分が何を伝えたいのかわかってきます」
さくらさんはピアレビューの隠れた効用にも気がついたみたい。
「そうしたら、もう一度『問い』を立て直して、アウトラインを組み直してみると良いよ」
「でも、調べ物に夢中になっちゃって・・・なかなかできないんですよね」
「ある程度調べがついてきたら、一旦成果物のかたちに書いてみるといい。書いてみて、長すぎるなあと思ったら、要求されたまとまりになりそうなものだけにして、それ以外は次の機会にまわせるものは回そう。なあに、一回のレポートのためだけに勉強してるんじゃないんだからさ。そのうちどこかでまた調べたくなることもあるから、無駄にはならない」
「それに、一旦関心をもって読んでおけば、このさきアンテナが立ってて情報が集まりやすくなりますよね」
おお、さすがは新聞部部長。
「うん、最初の『発想』段階で色々調べたこと自体はムダにはならないから、幅広く調べて、うまく『整想』してほしいな」
◇ぱうぜセンセのメモ◇
自分の論文も、「大きな問題としてはこういうことがあるんだけど、全部やってると書き切れないから今回はここやるよ!(意訳)」って部分があって・・・そういうのって大抵、「はじめに」と「おわりに」に書いてあるんだよね。今まさに連載最終回を執筆中。ああ、これ書き上げたら次の問題にとりかからなきゃ。
編集後記
ブログでもついつい長くなりすぎてしまいますが、なるべく「一記事一メッセージ」になるように心がけて書くようにしております。リンク張れば良いですからね。
途中に出てきた『問い・答え・論拠』や、脚注の付け方などについては過去のエントリーをご覧ください。
「信用できる本ってどう見分けるの?」情報の目利きになるには
実は引用や参照、脚注のルールについての話でもあります
その「問い」は何のため?レポート課題の目的とは
問いと答えと論拠がそろった文章を書きましょう
ぜひ皆さん、「バーチャルコメントボックス」に質問をお寄せください。Twitterで @kfpause宛てにツイートしていただいても結構ですし、 #ashitano をつけて投稿していただければ適宜拾いますので、どしどしお寄せください。
2013年春から大学教員になった駆け出しの研究者。専門は行政法。
個人ブログとして対話をテーマとした「カフェパウゼをあなたと」を運営中。
http://kaffeepause-mit-ihnen.hatenablog.jp/