ようやくお盆休みが終わって、図書館もまた使えるようになったし、久々に大学に行ってみるか。あ、向こうから歩いてくるの、ぱうぜセンセだ。
「やあ進吾くん、資格試験の勉強かい、熱心だねえ」
「センセこそ、真夏なのにお忙しそうですね」
「いやはや、それでも比較的余裕があるから、冬学期の準備をしないとなあ、と」
大学の先生っていうのは長期休暇期間に執筆とか時間のかかる仕事をまとめてするから「休み」が無いっていうけど、授業準備もそうなのか。
「そうだ、去年の受講生代表ってことで、ちょっと相談にのってほしいんだ」
「コメントボックスって実は難しいよね?」
あれ、なんかマズイことでもあったのかな。とりあえず、アイスコーヒーをごちそうになりながら、話を聞くことになった。
(前回のお話はこちら)心の中に「専門分野」を持ってみよう
気安さの代償に失うもの
「去年の授業で、コメントボックス制度を採用していたの、覚えてるよね」
そうそう、ぱうぜセンセの授業は、「質問、疑問、なんでもいいから、何かあったらコメントをボックスに入れてね!」っていうことだったなあ。自分の名前を書いても良いし、書かなくても良いし。ハンドルネームでもいいんだったな、そういや。
「そもそもこの連載のタイトルになってるくらいだからねえ」
えっ、そういうメタ発言、いいの?センセ・・・
「ああ、今回は『番外編』だからいいんだよ。いやあ、実にいろんな質問が来るからさ、とても愉しいんだよねえ」
だったら別に悩むこともないし、オレにアイスコーヒーおごってまで話すことでもないような・・・
「でもね、ときどき考え込んじゃうパターンがあってね」
「それって、キツいこと言われたとか、そういうことっすか」
「いや、わかりにくいところや授業日程の勘違いをズバリ指摘されたりとか、早口になってたりとか、ちょっと調子に乗ってるときに釘を刺してくれるコメントもあるからそれはそれで大事だし」
あ、それって昨年の授業第1回のコメントの要約っすか。ほんとに実話ベースなんだな、これ・・・
「何がくるか分からなくて困るんなら止めればいいだけだよ。教員と学生という関係だと、どうしてもこっちのほうが立場が強くなっちゃうからね・・・あれこれを気にしないで遠慮無く何でも書いてもらうことに意味があるんだから、そういう理由では悩まないよ」
「それじゃ、何が困るんですか」
「ええとね・・・完全匿名にすると、『質問の意図がわからない』とか、『投げ返した球がうまくいったのかが分からない』んだよ」
ん、それってどういうこと?
困ってしまった質問
「そうだね、例がないと辛いだろう。こういう質問だったんだ」
○○先生の演習書、129頁の説明は間違ってると思うんですけど、ぱうぜセンセどう考えますか?
まあ、良くある質問だなあ。というか、よく勉強しているタイプの友達が投げそうな質問だ。
「実際に129頁を読んでみて、どうだったんですか」
「いや、何が間違ってるのかわからなかったんだよ」
そうか、センセ、よく言ってるもんな、『私たちには君たちが何を疑問に思っているのかが分からないから、理由も付けて説明してくれ』って。
「だったら、質問者を呼び出すなりして聞けばいいじゃないですか」
「それがね・・・完全匿名だったから、そうもいかなくて」
そっか、コメントシートに無記名での質問だったり、ask.fmで『匿名で質問する』モードになってると、わかんないよね・・・
「結局、このときはtwitterでそれとなく呼びかけて、再質問してもらって事なきを得たんだけど」
そっか、匿名性を高めすぎると、応答したくなったときに困っちゃうのか。
質問力を鍛える訓練になるかなあ・・・
「それで、再質問で質問の趣旨はわかったんですか」
「うん。質問者はよく勉強してたんだけど、専門家なら当然想定するような、あるピースを想定しないで議論をかっちり組み立ててしまっていることがわかったんだ。質問者の目からみたら間違ってるようにみえた理由も、ようやくわかったよ」
それが、最初の質問からはわからなかった、と。
「たぶんね、質問の意図が伝わってないことに気がついて、自分がどうして疑問に思ったのかを説明しようとして、出てきたと思うんだよね」
「センセや筆者からみたら当たり前なことだったんですか?そのピースって」
「うん、まさかその角度から質問が来るとは思ってなかったから不意打ち気味だったよ。でも、たしかに真面目に考えるとつまづきかねないところだったんだよね。授業でももっと丁寧に説明しなきゃ、と反省したよ」
そんなことがあるのか・・・。
「まあそれも、質問者が諦めずに何度も質問してくれたからっすね」
「そうそう。Twitterでのボヤキに気がついてくれて、再質問してくれたから、ようやくわかったことでもあって。だから、コメントボックスも、『できるだけ理由をつけること』と、『ハンドルネームでもいいので名前をつけること』をお願いした方が良いのかなあ、と思ったり」
「気軽に質問してもらうことと、質問力を鍛えてもらうことの両立って、難しいっすね」
「まあ出来ないことも無いと思うし、実際ゼミで教えている人の質問力の上がり方はめざましいものがあるから、どんどんやってくれてかまわないんだけどね」
「言いにくいことも出来るだけ書いてもらいたいなら、完全匿名のコメントも排除したくない、ってことっすか」
「うん、そうなんだよね。さて、来学期もやることにするけど、どうなるかな」
こればっかりはやってみないとわかんないんじゃないかなあ・・・。
◇進吾くんのひとりごと◇
それにしてもメタ発言OKだなんて、この企画大丈夫なのかな…。まあ、たまには舞台裏を書きたくなったんだろうけどね。
編集後記
今回はask.fmで経験した質問を元に構成してみました。授業でやってみた実際としては、結構きちんと名前を書いてくれる人が多いのですが、ときどき、無記名のものもあって、解釈に困ることがあります。まあ、あまり気にしすぎてもしょうが無いのですけれども。
今回番外編としたのは進吾くんの言うとおりで、メタ発言があるからですね。「ぱうコメ」全体の編集後記、というような位置づけのような回でした。めったなことではやらないと思いますが、その1としておきます。
ぜひ皆さん、「バーチャルコメントボックス」に質問をお寄せください。Twitterで @kfpause宛てにツイートしていただいても結構ですし、 #ashitano をつけて投稿していただければ適宜拾いますので、どしどしお寄せください。
2013年春から大学教員になった駆け出しの研究者。専門は行政法。
個人ブログとして対話をテーマとした「カフェパウゼをあなたと」を運営中。
http://kaffeepause-mit-ihnen.hatenablog.jp/